創業時、個人事業と株式会社どちらを選ぶ?専門家が多角的に比較解説

2026.08.13

「会社を作りたいけれど、何から手をつければいいのかわからない」「個人事業と株式会社、どちらで始めるべきか迷っている」

創業を志す皆さんの多くが、このようにお悩みではないでしょうか。事業を始める際、その「器」を個人事業主とするか、あるいは株式会社として法人を設立するかは、皆さんの事業の将来を大きく左右する重要な選択です。

設立の手軽さや費用、税金、資金調達のしやすさ、社会的な信用、そして将来の事業展開など、考慮すべき点は多岐にわたります。漠然とした不安を抱えながらも、具体的な情報収集に踏み出せない方もいらっしゃるかもしれませんね。

この記事では、創業支援の専門家である私自身が、個人事業と株式会社それぞれの特徴を詳しく解説し、多角的な視点から比較します。皆さんの事業計画や将来のビジョンに合わせて、最適な選択ができるよう、コストや手間を最小化しながら最初の一歩を踏み出せる情報を提供いたします。ぜひ、ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。

目次

個人事業と株式会社、どちらを選ぶべきか?【結論先出し】

創業時に個人事業と株式会社のどちらを選ぶべきかという問いに対しては、皆さんの事業計画や将来的なビジョンによって、最適な選択は異なります。一概に「どちらが良い」と断言することは難しいでしょう。

一般的に、次のような傾向があります。

  • 初期費用を抑え、スモールスタートで事業を始めたい場合:個人事業主が適している可能性が高いです。手軽に開業でき、事務手続きも比較的シンプルです。
  • 将来的に事業規模を拡大したい、多くの資金調達を検討している、社会的信用を重視したい場合:株式会社の設立が視野に入ってきます。設立には費用と手間がかかりますが、長期的な事業成長には有利に働くことが多いでしょう。

大切なのは、ご自身の事業内容、売上見込み、資金計画、そして将来の展望を具体的に描いた上で、両者のメリット・デメリットを比較検討することです。この後、それぞれの特徴と詳しい比較をお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。

個人事業主とは?その特徴と始め方

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を行う人を指します。特定の事業を継続して行い、収益を得ることを目的としていれば、開業届を提出することで個人事業主として活動できます。

個人事業主のメリット

  • 開業の手軽さ: 税務署に開業届を提出するだけで、原則としてすぐに事業を開始できます。設立費用もかかりません。
    参照: 国税庁|個人事業の開業・廃業等届出書
  • 設立・運営コストの低さ: 株式会社のような設立費用や法人住民税の均等割などの固定費が発生しません。会計処理も比較的シンプルです。
  • 自由度の高さ: 会社法などの制約を受けず、自身の判断で事業を運営できます。

個人事業主のデメリット

  • 社会的信用の面: 法人と比較して、取引先や金融機関からの信用度が低く見られがちな場合があります。新規取引や多額の融資を受ける際に不利に働くことも考えられます。
  • 資金調達の難しさ: 融資の選択肢が法人に比べて限られたり、調達額が少なくなる傾向があります。日本政策金融公庫の創業融資など、個人事業主も利用できる制度はありますが、株式会社の方が選択肢が広がる傾向にあります。
  • 無限責任: 事業で発生した負債は、全て個人の財産で弁済する義務があります。万が一、事業がうまくいかなかった場合のリスクは大きいです。
  • 節税対策の限界: 事業規模が大きくなり、利益が増加すると、所得税の税率が法人税率よりも高くなる可能性があります。また、役員報酬や退職金などの損金算入による節税メリットも活用できません。

個人事業主として開業する流れ

個人事業主として開業する主な流れは以下の通りです。

  1. 事業内容の決定: どのような事業を行うか明確にします。
  2. 屋号の決定: 必要に応じて屋号を決めます。
    参照: 【専門家が伴走】創業時の屋号はどう決める?商標登録を検討すべきケースと費用
  3. 開業届の提出: 事業を開始してから1ヶ月以内に、所轄の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
  4. 青色申告承認申請書の提出(任意): 所得税の青色申告特別控除や青色専従者給与などの税制上のメリットを受けるには、「所得税の青色申告承認申請書」を原則として開業から2ヶ月以内に提出します。

大阪で個人事業を始める手順と必要な届出:専門家が解説するスムーズなスタート」でも詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

株式会社とは?その特徴と設立方法

株式会社とは、会社法に基づいて設立される法人格を持つ組織で、株主が出資した資金を元手に事業を運営します。出資者である株主は、有限責任であることが大きな特徴です。

株式会社のメリット

  • 社会的信用の高さ: 法人としての存在は、取引先や金融機関、顧客からの信用度を向上させやすい傾向があります。これは、事業拡大や新たな取引の獲得に有利に働くことがあります。
  • 資金調達の選択肢の広さ: 株式の発行による資金調達が可能であり、融資においても個人事業主より選択肢が広がることが一般的です。日本政策金融公庫をはじめとする金融機関からの融資も、株式会社の方が信用を得やすい傾向にあるでしょう。
  • 有限責任: 株主は出資した範囲内で責任を負うため、万が一事業が破綻しても、個人の財産を失うリスクは原則としてありません(ただし、会社の借入に個人保証をつける場合などは例外です)。
  • 節税対策の幅広さ: 役員報酬や退職金を損金として計上できるなど、個人事業主よりも多様な節税対策を講じることが可能です。法人税の税率も、所得が一定額を超えると所得税率よりも低くなる場合があります。
  • 人材採用の優位性: 法人であることで、社会保険の加入が義務付けられ、福利厚生の面で人材採用に有利に働くことがあります。

株式会社のデメリット

  • 設立費用と手間: 設立には、定款認証費用(約5万円)、登録免許税(最低15万円)、印鑑作成費用など、一般的に20万円以上の費用がかかります。また、定款作成や法務局への登記申請など、個人事業主よりも複雑な手続きが必要です。
  • 運営コストの発生: 決算公告義務や法人住民税の均等割(赤字でも原則として発生)など、事業活動がなくても毎年一定のコストがかかります。
  • 会計・税務の複雑さ: 法人税や消費税など、個人事業主よりも高度な会計・税務知識が求められます。税理士などの専門家への依頼費用が発生することも一般的です。
  • 会社法の制約: 会社法に従った組織運営が求められ、株主総会の開催や役員変更登記など、様々な手続きや義務が生じます。

株式会社設立の流れ

株式会社を設立する主な流れは以下の通りです。

  1. 基本事項の決定: 商号(会社名)、事業目的、本店所在地、資本金、役員構成などを決定します。
  2. 定款の作成・認証: 会社のルールブックである定款を作成し、公証役場で認証を受けます。電子定款を利用すると、印紙税4万円が不要になり、費用を抑えることが可能です。
    参照: 法務省|公証役場
  3. 資本金の払い込み: 会社の銀行口座に資本金を払い込みます。
  4. 設立登記の申請: 決定した本店所在地を管轄する法務局へ設立登記を申請します。登記申請日が会社の設立日となります。
    参照: 法務省|商業・法人登記
  5. 税務署等への届出: 会社設立後、税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ法人設立届出書などを提出します。従業員を雇用する場合は、労働基準監督署やハローワーク、年金事務所への届出も必要です。
    参照: 国税庁|法人設立届出書

個人事業と株式会社、多角的な視点から比較

ここからは、個人事業主と株式会社の具体的な違いを、より多角的な視点から比較していきます。皆さんの事業計画に合った選択を見つけるために、一つひとつの項目をじっくりと検討してみてください。

設立費用と期間の比較

項目 個人事業主 株式会社
設立費用(目安) 原則として0円 約20万円~30万円程度
設立期間(目安) 数日~1週間程度 2週間~1ヶ月程度
主な費用内訳 なし(または屋号印鑑代など) 定款認証費用、登録免許税、印鑑作成費など

ポイント:

  • 個人事業主は、開業届を提出するだけでスタートできるため、費用も期間も大幅に抑えられます。
  • 株式会社の設立には、法定費用だけでも約20万円はかかります。また、定款作成や公証役場での認証、法務局への登記など、準備期間も必要です。

税金・社会保険の比較

項目 個人事業主 株式会社
主な税金 所得税、住民税、個人事業税、消費税 法人税、法人住民税、法人事業税、消費税
税率 所得税は累進課税(5%~45%) 法人税は比例税率(普通法人で原則15%~23.2%)
社会保険 国民健康保険、国民年金(原則) 健康保険、厚生年金保険(原則として役員・従業員全員加入義務)
経費計上 事業関連費のみ(給与は原則不可) 役員報酬、退職金なども損金算入可

ポイント:

  • 利益が大きくなると、個人事業主の所得税率(累進課税)が法人税率(比例課税)を上回ることがあります。一般的に、所得が年間500万円~800万円を超えると、法人化した方が税負担が軽くなるケースが見受けられますが、これはあくまで目安であり、事業内容や経費の状況によって大きく異なります。
  • 社会保険に関しては、個人事業主は国民健康保険と国民年金が基本ですが、株式会社は役員や従業員が健康保険・厚生年金に加入する義務が生じます。保険料の会社負担分が発生するため、固定費が増加します。

税金や社会保険については専門的な知識が必要ですので、詳細は税理士や社会保険労務士などの専門家にご相談いただくことをお勧めします。

資金調達のしやすさの比較

項目 個人事業主 株式会社
融資の選択肢 比較的に少ない 多様な選択肢がある
出資による調達 原則として不可 株式発行による調達が可能
金融機関からの評価 法人と比較して慎重な傾向 信用力が高く、融資を受けやすい傾向

ポイント:

  • 事業の成長には資金調達が不可欠ですが、株式会社の方が金融機関からの信用を得やすく、融資の選択肢が広がる傾向にあります。将来的に大規模な資金調達を考えている場合は、株式会社を選択することが有利に働くかもしれません。
  • 特に、創業融資における自己資金の目安や、創業融資で避けたい事業計画書の特徴など、資金調達に関するポイントは多々ありますので、過去記事も参考にしてください。

社会的信用の比較

項目 個人事業主 株式会社
一般的なイメージ 小規模、個人経営 組織的、安定した企業
取引先からの評価 新規取引で審査が厳しくなることも 信用力が高く、取引拡大に有利
求職者からの評価 福利厚生が不十分と見られがち 安定性や福利厚生で優位

ポイント:

  • 社会的信用は、新規顧客の獲得、取引先との契約、人材採用など、事業のあらゆる側面で影響を与えます。特にBtoB(企業間取引)の事業では、株式会社であることが前提となるケースも珍しくありません。

事業承継のしやすさの比較

項目 個人事業主 株式会社
事業承継の容易さ 財産として承継する形が主で複雑 株式の譲渡により比較的容易

ポイント:

  • 個人事業の場合、事業用の資産を個人の財産として相続する必要があり、手続きが複雑になりがちです。
  • 株式会社は、株式を譲渡するだけで事業を承継できるため、後継者への引継ぎやM&A(合併・買収)など、事業の出口戦略において柔軟性があります。

責任範囲の比較

項目 個人事業主 株式会社
事業上の責任 無限責任 有限責任(株主の場合)

ポイント:

  • 個人事業主は事業上の負債や損害に対して、個人の全財産で責任を負う無限責任です。万が一事業が失敗した場合、個人の資産も失うリスクがあります。
  • 株式会社の株主は、出資した金額の範囲内で責任を負う有限責任が原則です。これにより、経営上のリスクと個人の資産を分離できます。ただし、創業期の融資においては、経営者個人が連帯保証を求められるケースも一般的であり、その点には注意が必要です。

法人化を検討するタイミングと判断基準

個人事業主としてスタートし、事業が成長した段階で法人化(会社設立)を検討するケースも多く見られます。では、どのようなタイミングで法人化を検討すべきでしょうか。いくつかの判断基準をご紹介します。

  • 売上や利益が一定水準を超えた場合: 一般的に、事業所得が年間500万円から800万円を超えると、所得税率よりも法人税率の方が有利になる傾向があります。正確な分岐点は事業の経費や家族構成などによって異なりますが、この辺りが一つの目安となるでしょう。
  • 事業拡大に伴い、外部からの信用が必要になった場合: 新規の取引先や金融機関からの融資、優秀な人材の確保など、事業をさらに発展させる上で法人としての信用力が必要になった時です。
  • 大規模な設備投資や多額の資金調達を予定している場合: 法人の方が、融資や出資の選択肢が広がり、より有利な条件で資金を調達できる可能性があります。
  • 責任範囲を限定したい場合: 事業リスクが大きくなり、個人の資産と事業を明確に分離し、有限責任の恩恵を受けたいと考える場合です。
  • 事業承継を視野に入れている場合: 将来的に事業を後継者に引き継ぐ、あるいは売却する可能性がある場合、法人の方が手続きがスムーズに進む傾向があります。

実は、個人事業主として順調に事業を拡大した後に法人化を検討される方も多いのですが、その際に「もっと早く法人化しておけばよかった」と仰る方もいらっしゃいます。法人化の準備や手続きには時間と費用がかかるため、見込みが出てきた段階で早めに専門家と相談し、計画的に進めることが大切です。

創業融資・補助金・助成金の活用

個人事業主として始めるにせよ、株式会社を設立するにせよ、創業期の資金繰りは事業成功の鍵を握ります。少ない資金でもスタートできるよう、公的な支援制度の活用を検討してみましょう。

補助金や助成金は審査に通ることが前提であり、必ずしも受給できるものではありませんが、情報収集と計画的な申請が成功の鍵を握ります。特に、創業準備】失敗しないための許認可ガイドでも触れているように、事業によっては許認可の取得が前提となる場合がありますので、事前に確認することが大切です。

これらの資金調達については、専門家と相談し、ご自身の事業に合った最適な方法を見つけることをお勧めします。

よくある疑問Q&A

創業を検討されている皆さんからよくいただくご質問にお答えします。

Q1: 設立費用を抑える方法はありますか?

A1: 株式会社の設立費用を抑える方法はいくつかあります。

  • 電子定款の活用: 定款を電子データで作成・認証することで、収入印紙代4万円が不要になります。
    参照: 法務省|電子認証制度について
  • 自分で手続きを行う: 司法書士や行政書士などの専門家に依頼せずに、ご自身で定款作成や登記申請を行うことで、専門家報酬を節約できます。ただし、複雑な手続きであり、時間や労力がかかる点、ミスが生じるリスクがある点には注意が必要です。
  • 専門家への相談: 手続きの一部を専門家に依頼し、コストと手間のバランスを取ることも可能です。例えば、電子定款の作成のみを依頼するなど、部分的なサポートを受ける選択肢も考えられます。

Q2: 個人事業から株式会社に移行する際の手続きは?

A2: 個人事業から株式会社に移行することを「法人成り」と呼びます。主な手続きは以下の通りです。

  1. 株式会社の設立手続き: 上記「株式会社設立の流れ」で説明した通り、新たな法人として株式会社を設立します。
  2. 個人事業の廃業手続き: 個人事業としての事業を停止し、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
  3. 事業資産の引き継ぎ: 個人事業で使っていた車両やPCなどの事業用資産を、設立した株式会社に売却するか、現物出資として引き継ぐ手続きを行います。

この法人成りのプロセスは、税務上複雑な判断が伴う場合があります。例えば、消費税の納税義務の取り扱いなど、見落としがちなポイントも存在します。私自身も、お客様に指摘されるまで気づかなかったような、個別の状況に応じた最適な引き継ぎ方法があるものです。そのため、事前に税理士などの専門家へ相談し、計画的に進めることを強くお勧めします。

Q3: 設立後に後悔しないために注意すべき点は?

A3: 設立後に後悔しないためには、以下の点に注意することが重要です。

  • 事業計画の具体化: 設立形態を決定する前に、しっかりとした事業計画を策定することが大切です。売上計画、資金計画、人員計画などを具体的に描くことで、どの形態が最適かが見えてきます。特に、創業融資を成功させる売上計画の立て方も参考に、説得力のある計画を立てましょう。
  • 専門家への相談: 税金、法務、労務など、創業には様々な専門知識が必要です。税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士などの専門家からアドバイスを受けることで、リスクを回避し、スムーズなスタートを切ることができます。
  • 情報収集と学習: 創業後も、経営者として常に新しい情報を収集し、学び続ける姿勢が求められます。特に、資金繰りについては、「会計上の赤字」と「資金繰り」の違いを理解しておくことが非常に重要です。
  • コスト管理: 設立費用だけでなく、その後の運営にかかるコスト(税金、社会保険料、専門家報酬など)を把握し、無理のない資金計画を立てましょう。

まとめ

創業時に個人事業主としてスタートするか、株式会社を設立するかは、皆さんの事業の現在地と将来の展望によって、その選択肢が異なります。手軽さやコストを重視するなら個人事業主、社会的信用や資金調達、将来的な事業拡大を見据えるなら株式会社が選択肢となるでしょう。どちらの形態もメリットとデメリットがありますので、ご自身の状況と照らし合わせながら、最適な道を選ぶことが肝要です。

一人で悩まず、信頼できる専門家のアドバイスを求めることで、より安心して創業準備を進められるはずです。この記事が、皆さんの創業における一助となれば幸いです。

株式会社リーガルシンクでは、創業融資や物件選定、許認可手続きなどについて、必要に応じて専門家と連携しながら総合的なサポートを提供しています。

無料相談も受け付けていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

この記事を書いた人

松原元

松原 元(まつばら つかさ)

『リーガルシンク社労士•行政書士事務所』にて『総務の助っ人』として中小企業の許認可取得や労務管理をサポート。(株)リーガルシンクでは店舗不動産等の仲介から創業融資などの資金調達支援や補助金・助成金活用まで幅広く経営全般のサポートを提供。

社会保険労務士 行政書士

公認不動産コンサルティングマスター 宅地建物取引士

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

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