創業融資や事業継続のために知るべき「会計上の赤字」と「資金繰り」の違い

2026.07.31

「会社を作りたいが何から手をつければいいか分からない」という創業希望者の方から、資金調達に関するご相談を多くいただきます。特に「事業計画書で赤字を見込んでも融資は受けられるのか」「事業が赤字になったらどうなるのか」といった資金繰りへの不安を耳にすることが少なくありません。

事業を始める上で、会計上の利益と現金の動きは密接に関わりますが、必ずしも一致するわけではありません。この違いを理解し、適切に説明できることが、創業融資を成功させ、事業を安定的に継続するための重要な鍵となります。

本記事では、創業支援を専門とする行政書士として、会計上の赤字と資金繰りの違い、金融機関が注目するポイント、そして創業者が資金繰りを健全に保つための具体的な視点について解説します。コストと手間を最小化しながら、最初の一歩を踏み出すための情報としてご活用ください。

目次

創業融資や事業継続のために知るべき「会計上の赤字」と「資金繰り」の違い

創業融資の審査や事業の継続において、会計上の「赤字」という言葉は不安を抱かせることがあります。しかし、会計上の赤字と実際の資金(現金)の増減は必ずしも一致しません。この違いを理解することが、事業計画の作成や経営判断において非常に重要です。

会計上の赤字(損益計算書)とは何か

会計上の赤字とは、損益計算書において、一定期間(例えば1年間)の「収益の合計」から「費用の合計」を差し引いた結果がマイナスになる状態を指します。損益計算書は、企業の経営成績を示す主要な書類であり、最終的な利益(または損失)がいくらだったかを示します。

しかし、費用の中には、実際に現金の支出を伴わないものも含まれます。その代表例が「減価償却費」です。例えば、高額な設備を購入した場合、購入時に一度現金が大きく減少しますが、その費用は会計上、数年間にわたって分割して計上されます。この分割計上された費用が減価償却費であり、毎期計上される減価償却費は、その期の現金の支出を伴いません。このため、減価償却費が多い期には、実質的な資金流出が少なくても、損益計算書上は赤字となることがあります。

法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算)では、所得の金額の計算にあたり、益金の額から損金の額を控除すると規定されています。この損金に含まれる費用が、損益計算書上の費用の基礎となります。

資金繰り(現金の動き)とは何か

資金繰りとは、事業における現金の収入と支出の実際の流れを指します。損益計算書が「儲け」を示すのに対し、資金繰りは「現金の残り」を示すものと考えると理解しやすいでしょう。

たとえ損益計算書が赤字であっても、手元に十分な現金があれば、事業を継続することは可能です。例えば、前期に多くの利益を上げて現金を蓄えていた場合、今期に一時的な赤字が発生しても、その蓄えで対応できることがあります。逆に、損益計算書上は黒字であっても、売掛金(未回収の売上代金)が多くて現金が不足したり、借入金の元本返済が重くのしかかったりすることで、現預金が底をつき、事業が立ち行かなくなる「黒字倒産」に陥るリスクもあります。

創業期には特に、売上が安定せず、計画外の支出が発生する可能性も考慮し、損益計算書の利益だけでなく、現金の動きである資金繰りの管理が非常に重要になります。

金融機関が赤字決算や事業計画書で注目するポイント

金融機関は、創業融資の審査や既存企業への融資判断を行う際、単に「赤字か黒字か」という表面的な情報だけでなく、その内容を深く掘り下げて確認します。特に創業期においては、事業計画書における資金計画の説得力が重視されます。

損益計算書だけでは分からない現金の動き

金融機関は、損益計算書だけでは把握できない現金の動きを重視します。具体的には、以下の点に着目して、実質的な資金流出入を判断します。

  • 減価償却費の有無とその影響
    前述の通り、減価償却費は現金の支出を伴わない費用です。金融機関は、損益計算書上の赤字に減価償却費がどれだけ含まれているかを確認し、実質的な資金流出を評価します。減価償却費が多い赤字であれば、実際の資金繰りへの影響は限定的と判断されることがあります。創業期に設備投資を行う場合、この減価償却費が事業計画上の損益にどう影響するかを説明できると良いでしょう。

    法人税法第31条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)では、減価償却資産の償却費の計算方法が定められており、この規定に基づいて会計上の処理が行われます。

  • 在庫の変動と現金流出入
    商品を仕入れたり、原材料を購入したりする際には、現金が流出します。これが在庫として資産計上され、販売されたときに初めて費用(売上原価)となります。もし、仕入れを先行させて在庫が増加した場合、損益計算書上は費用として計上されなくても、現実は多額の現金が流出しています。逆に、既存在庫が売れて現金が入ってきても、新たな在庫購入が多ければ、手元資金は増えにくいでしょう。金融機関は、在庫の増減が資金繰りに与える影響を厳しく見ています。事業計画には、適切な在庫管理計画と、それに伴う資金計画を盛り込むことが望ましいです。
  • 前受金の意味と資金繰りへの影響
    前受金とは、顧客から商品やサービスの提供前に受け取った代金のことです。入金があった時点では手元に現金が増えますが、これはまだ売上として計上されず、将来の商品提供やサービス履行の義務が発生します。その義務を果たすためには、仕入れや外注費などの費用が発生するため、前受金の全額を自由に使える資金と見なすべきではありません。金融機関は、前受金が多く計上されている場合、将来の費用負担を考慮して実質的な資金余力を評価します。

借入返済計画が資金繰りに与える影響

創業融資を受ける場合、その返済計画は資金繰りに直接的な影響を与えます。決算書に記載された借入残高だけでなく、金融機関は以下の項目を詳細に確認し、返済能力と資金繰りの健全性を判断します。

  • 金融機関名
  • 現在の借入残高
  • 毎月の返済額
  • 金利
  • 最終返済日
  • 保証協会付融資かプロパー融資か

例えば、借入残高が大きくても、返済期間が長く毎月の返済額が少なければ、資金繰りへの負担は軽減されます。一方で、借入残高が少なくても、短期間での返済を求められ毎月の返済額が大きければ、資金繰りが厳しくなる可能性があります。創業計画書では、融資を受けた場合の具体的な返済計画を示し、無理のない範囲で事業を継続できることを示す必要があります。年間返済額と予測される手元資金のバランスを明確にし、余裕を持った資金計画を立てることが重要です。

事業計画書における赤字の見せ方

創業期の事業計画において、初年度に赤字を予測することは決して珍しいことではありません。重要なのは、その赤字がなぜ発生し、どのように解消されるのかを論理的かつ具体的に説明できることです。

  • 一時的な費用と継続的な費用の区別
    創業期には、内装工事費、設備購入費、開発費、広告宣伝費など、開業初期に集中的に発生する一時的な費用が多く存在します。これらは、その後の事業活動の基盤を築くための「先行投資」と位置づけられ、翌期以降の収益に繋がるものです。一方、家賃、人件費、通信費などの固定費は、売上の増減に関わらず毎月発生し続ける費用です。金融機関は、これらの費用を区別して評価し、一時的な赤字であればその許容範囲を検討します。事業計画では、一時的な費用と継続的な費用を明確に分け、その影響と見込みを説明しましょう。
  • 赤字の要因と解消策を具体的に示す重要性
    単に「初年度は赤字になります」と伝えるだけでは、金融機関の信頼を得ることは困難です。なぜ赤字になるのか、例えば「新規顧客獲得のための初期広告費を多めに計上しているため」「特定の設備の導入費用が一時的に重いため」といった具体的な要因を提示します。さらに、その赤字が「いつまでに」「どのようにして」解消され、黒字転換するのか、具体的な施策(例:顧客獲得目標の達成、費用対効果の高いプロモーションへの切り替え、生産効率の改善)と数値目標(例:〇ヶ月後には損益分岐点を超過し、〇年後には利益率〇%を目指す)を示すことが極めて重要です。

創業者が資金繰りを健全に保つための具体的な視点

資金繰りを健全に保つことは、事業を安定的に成長させる上で最も基本的ながら重要な要素です。特に創業期は、予期せぬ出費や売上変動のリスクが高いため、以下の視点を持って資金管理を行うことが推奨されます。

現金の流れを把握する6つのステップ

事業における現金の流れを視覚的に捉え、管理するためには、以下の6つの要素を意識して整理することが有効です。

  1. 売上: 事業の収益源です。売上予測を現実的に行い、その根拠を明確にすることが資金計画の出発点となります。売上の入金サイクル(現金払い、売掛金回収など)も考慮に入れましょう。
  2. 粗利益: 売上から商品やサービスの原価(売上原価)を差し引いたものです。粗利率が低いと、多額の売上を上げても手元に残る利益が少なく、資金繰りが厳しくなる可能性があります。粗利率を高める戦略も重要です。
  3. 固定費: 売上の増減にかかわらず、毎月または定期的に発生する費用です(例:家賃、人件費、リース料、通信費)。固定費は資金繰りを圧迫しやすい要因となるため、創業期はできる限り抑制し、変動費化できないかを検討することがコスト最小化の鍵となります。
  4. 在庫: 商品や原材料の在庫が増えれば現金が減少し、減れば現金が入ってきます。過剰な在庫は現金を固定化させ、資金繰りを悪化させる原因となります。適切な在庫レベルを見極め、計画的な仕入れと販売を心がける必要があります。
  5. 売掛金: 顧客に商品やサービスを提供したものの、まだ代金を受け取っていない債権です。売掛金が多すぎると、帳簿上は利益が出ていても手元に現金がない「黒字倒産」のリスクが高まります。売掛金の回収サイト(入金までの期間)を短縮する交渉や、与信管理の徹底が重要です。
  6. 返済額: 借入金の元本返済は損益計算書には費用として計上されませんが、現金を大きく減少させます。創業計画段階で、無理のない返済計画を立て、毎月の返済額を正確に把握しておくことが不可欠です。

これらの要素を時系列で整理することで、将来的な資金不足の時期を予測し、事前に対策を講じることが可能になります。

公的支援制度や専門家活用のメリット

創業期の資金繰りの安定化には、公的支援制度や専門家の活用が非常に有効です。これらを活用することで、コストを抑えつつ、事業の安定性を高めることができます。

  • 創業融資(日本政策金融公庫・制度融資)
    民間の金融機関と比べて低金利で利用できることが多く、創業期の資金調達の有力な選択肢です。特に日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や、各自治体と金融機関が連携する「制度融資」は、担保・保証人なしで利用できる場合もあり、創業希望者にとっては心強い味方となります。これらの融資制度の活用は、手元資金を確保し、予期せぬ資金ショートのリスクを低減するために有効です。

    参考:日本政策金融公庫 新創業融資制度

  • 補助金・助成金の活用
    国や地方公共団体が提供する補助金や助成金は、返済不要の資金であり、創業期の費用負担を軽減する大きな助けとなります。事業内容や地域、従業員の雇用状況などに応じて様々な種類があります。ただし、申請には手間と時間がかかり、必ずしも受給できるとは限りません。最新の情報は中小企業庁のウェブサイトなどで確認し、ご自身の事業に合ったものを検討しましょう。

    参考:中小企業庁 補助金・助成金

  • 経営計画の相談窓口
    商工会議所、商工会、よろず支援拠点、そして私たち行政書士のような専門家は、創業計画の策定から資金調達、事業運営に至るまで、幅広い相談に対応しています。これらの窓口では、無料で専門的なアドバイスを受けられることが多く、客観的な視点や法令・税務に関する知識を得ることができます。特に複雑な資金繰り計画や金融機関との交渉に不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

    参考:J-Net21 創業

Q&A:赤字と資金繰りに関するよくある疑問

Q1. 赤字でも創業融資は受けられますか?

A1. 創業融資の場合、実績としての赤字決算がないため、事業計画書の内容が重視されます。事業計画で初年度に赤字を見込むことは珍しくありませんが、その赤字がなぜ発生し、いつまでにどのように解消されるのか、具体的な根拠とともに説明できることが重要です。特に、減価償却費など現金支出を伴わない費用による赤字は、金融機関も理解しやすいでしょう。重要なのは、赤字の原因と、それを乗り越えて黒字転換するための具体的な戦略を明確に提示することです。

Q2. 創業計画書で赤字を想定する場合、どのように説明すべきですか?

A2. 「単年度で赤字になるが、それは初期投資(設備投資、研究開発費など)や市場開拓のための先行費用であり、将来の収益基盤を築くための投資である」と明確に説明します。また、「いつまでに黒字転換し、その後はどのように利益を拡大していくか」について、具体的な数値目標と根拠(市場調査、競合分析、販売戦略など)を提示することが重要です。一時的な赤字であっても、その後の成長性や実現可能性を論理的に説明できるよう、綿密な計画を立てましょう。

Q3. 資金繰りが厳しくなった場合の対処法はありますか?

A3. まずは現金の流れを詳細に分析し、無駄な支出を特定します。次に、売掛金の早期回収交渉、買掛金の支払いサイトの延長交渉、過剰な在庫の適正化などを検討します。また、資金調達の選択肢として、追加融資や補助金・助成金の活用も視野に入れ、早めに専門家(行政書士、税理士、金融機関など)に相談することが大切です。資金ショートを起こす前に、迅速かつ冷静な対応が求められます。

Q4. 減価償却費とは具体的にどのような費用ですか?

A4. 減価償却費とは、事業に使う建物、機械、車両、什器備品などの固定資産の購入費用を、その資産が使用できる期間(「耐用年数」と呼ばれます)にわたって少しずつ費用として計上していく会計上の処理です。例えば、1,000万円の機械を5年間使う場合、毎年200万円ずつ費用計上するのが減価償却です。実際の現金の支出は購入時に一度だけ発生し、その後の減価償却費は現金支出を伴いません。このため、減価償却費が多い期間は、会計上は赤字でも、手元の現金はあまり減らないという状況が起こりえます。これは、金融機関が赤字の内容を評価する上で重要なポイントの一つです。

参考:国税庁 No.5400 減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法

Q5. 前受金が発生した場合、資金繰り上注意すべき点は?

A5. 前受金は、商品やサービスを提供する前に顧客から受け取った代金であり、一時的に手元の現金は増えます。しかし、これはまだ売上として計上されておらず、将来、商品提供やサービス履行の義務が発生するため、その費用(仕入れ代金、人件費など)を支払う必要があります。したがって、前受金が入金されたからといって、その全額を自由に使える資金と見なすべきではありません。将来の支出に備えて、別口座で管理するなど、資金使途を明確にしておくことが重要です。前受金が多い場合は、将来の費用発生を見越した資金計画を立てる必要があります。

まとめ

創業期において、会計上の赤字と資金繰りの違いを理解することは、事業の安定と成長にとって不可欠です。損益計算書上の赤字額だけにとらわれず、現金の実際の流れを正確に把握し、事業計画に反映させることが、金融機関からの信頼を得る上で重要となります。減価償却費や在庫、前受金の取り扱い、そして借入返済計画が資金繰りに与える影響を深く理解し、適切な資金管理を行うことが、コストを最小化しながら事業を成功させるための第一歩と言えるでしょう。

株式会社リーガルシンクでは、創業融資や物件選定、許認可手続きなどについて、必要に応じて専門家と連携しながら総合的なサポートを提供しています。

無料相談も受け付けていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

この記事を書いた人

松原元

松原 元(まつばら つかさ)

『リーガルシンク社労士•行政書士事務所』にて『総務の助っ人』として中小企業の許認可取得や労務管理をサポート。(株)リーガルシンクでは店舗不動産等の仲介から創業融資などの資金調達支援や補助金・助成金活用まで幅広く経営全般のサポートを提供。

社会保険労務士 行政書士

公認不動産コンサルティングマスター 宅地建物取引士

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

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