創業融資で「赤字の事業計画」は通るのか?現実的な考え方を専門家が解説

2026.08.22

皆さんの多くが、新たな事業の立ち上げに大きな期待を抱きつつも、資金調達、特に創業融資の壁に不安を感じているのではないでしょうか。「初年度は売上が伸び悩んで赤字になるかもしれない…」そんな事業計画でも、果たして融資は受けられるのか、と疑問に思うのは当然のことです。

私自身、長年多くの創業希望者の皆さんと伴走してきましたが、この「赤字の事業計画」に関するご相談は非常によくいただきます。結論から申し上げますと、赤字になる見込みの事業計画でも、創業融資を受けることは原則として可能です。

しかし、そのためには金融機関を納得させるための、現実的かつ説得力のある説明が不可欠です。この記事では、創業支援の専門家である私の視点から、赤字の事業計画でも融資を成功させるための具体的なポイントや、金融機関がどのような点に注目しているのかを、皆さんに寄り添う形でお伝えしていきます。コストと手間を最小限に抑えつつ、最初の一歩を踏み出すための知識を、ここでしっかりと身につけていきましょう。

【この記事を読めばわかること】

  • 創業融資審査における「赤字事業計画」の現実
  • 金融機関が赤字事業計画を見る際の具体的なポイント
  • 赤字計画でも融資獲得を目指すための具体的な対策
  • 事業計画書で金融機関に納得してもらうためのコツ

創業融資審査における「赤字事業計画」の現実

まず、皆さんに知っていただきたいのは、創業期の事業計画において、初年度や次年度に赤字を計上する見込みがあることは、決して珍しいことではないということです。特に、初期の設備投資が大きい事業や、市場開拓に時間と費用がかかる事業では、事業が軌道に乗るまでに一時的な赤字が発生することは、むしろ自然な流れと言えるでしょう。

金融機関も、この創業期特有の事情を理解しています。特に日本政策金融公庫のような政府系金融機関は、民間の金融機関と比較して、創業支援に積極的な姿勢を持っています。そのため、単に「赤字だから融資は不可能」と一刀両断されるわけではありません。

重要なのは、その「赤字」がどのような性質を持ち、どのように解消されていくのかを、論理的かつ具体的に説明できるかどうかにかかっています。融資の審査では、皆さんの「熱意」はもちろん大切ですが、それ以上に「事業の実現可能性」と「返済能力」が厳しく問われるのです。

金融機関が赤字事業計画を見る際のポイント

では、金融機関は赤字の事業計画をどのように評価するのでしょうか。彼らが着目する具体的なポイントを理解し、それに合わせて準備を進めることが、融資成功への鍵となります。

赤字の「質」と「内容」を重視する

一口に「赤字」と言っても、その原因や性質は様々です。金融機関は、単に損益計算書上の数字だけでなく、その赤字が「健全な赤字」であるかどうかを深く掘り下げて確認します。

  • 初期投資に伴う減価償却費: 例えば、高額な設備を購入した場合、会計上は減価償却費として毎年費用計上されます。これにより、損益計算書上は赤字であっても、実際に現金が外部に流出しているわけではありません。これは「会計上の赤字」であり、必ずしも資金繰りの悪化を意味しないことを、金融機関は理解しています。
  • 先行投資としての広告宣伝費や開発費: 事業を立ち上げる初期段階では、ブランド認知度を高めるための広告宣伝費や、商品・サービスを開発するための費用が先行して発生することがよくあります。これらは将来の売上を築くための「健全な投資」と見なされる場合があります。

大切なのは、皆さんの計画している赤字が、将来的な成長のために不可欠な「戦略的な赤字」であることを明確に説明することです。会計上の赤字と実際の資金繰りの違いについては、こちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。【創業融資や事業継続のために知るべき「会計上の赤字」と「資金繰り」の違い】

黒字化への道筋と資金繰り計画の妥当性

金融機関は、いつまでも赤字が続く事業に融資を行うことはできません。そのため、皆さんの事業計画において「いつ、どのようにして黒字化するのか」という道筋が具体的に描かれているかを非常に重視します。

  • 具体的な売上・費用計画: 黒字化への道筋を示すためには、単なる希望的観測ではなく、市場調査に基づいた具体的な売上目標と、それに対する費用計画が必要です。どのような顧客層に、どのような商品を、いくらで、どれだけ販売するのか、そしてそのためにどのような費用がかかるのかを詳細に記述しましょう。
  • キャッシュフロー計画: 損益計算書上の黒字も重要ですが、融資の返済原資となるのは「現金」です。そのため、事業の資金の入りと出を管理するキャッシュフロー計画が非常に重要になります。赤字の期間中も、手元の資金が底をつかないように、どのように運転資金を確保していくのかを具体的に示す必要があります。資金繰り計画が甘いと、「返済能力に疑問がある」と判断されてしまう可能性があります。

説得力のある売上計画の立て方については、こちらの記事も参考になるでしょう。【創業融資を成功させる売上計画の立て方|行政書士が解説する説得力ある計画作成のポイント】

「赤字の事業計画」が融資審査で不利になる理由

健全な赤字であれば融資も可能と述べましたが、それでも赤字の事業計画が審査において不利になる側面があることも理解しておく必要があります。

  • 返済能力への懸念: 金融機関にとって最も重要なのは、融資した資金がきちんと返済されるかどうかです。赤字が続くということは、その分、返済原資が目減りする可能性を示唆します。
  • 計画の甘さ、根拠の薄い数字: 「とりあえず初年度は赤字で」といった安易な考え方や、その赤字に対する具体的な説明や改善策が乏しい場合、計画そのものの信憑性が疑われます。過去記事でも触れていますが、根拠の薄い計画は融資の採択率を下げてしまいます。【創業融資で避けたい事業計画書の特徴と改善のポイント|専門家が伴走】
  • 経営者の資質への疑問: 事業計画は、皆さんの事業に対する理解度や分析力、そして経営者としての資質を映し出す鏡でもあります。赤字の原因を深く分析せず、将来の展望も描けていない計画では、「本当にこの経営者に事業を任せられるのか」という疑問を抱かれかねません。

これらの点を踏まえ、赤字計画であっても、その背後にある深い考察と、具体的な対策を盛り込むことが不可欠です。

赤字計画でも融資獲得を目指すための具体的な対策

では、実際に赤字を計画している事業で融資を受けるためには、どのような対策を講じるべきでしょうか。私自身の経験から、特に重要だと感じるポイントをいくつかご紹介します。

赤字の理由を明確に説明する

これは基本中の基本ですが、非常に重要です。「なぜ赤字になるのか」を具体的に、かつポジティブな文脈で説明できるように準備しましょう。例えば、

  • 「新規顧客獲得のための大規模な広告宣伝費を先行投資する計画であり、〇年後には売上〇〇円、利益〇〇円を達成する見込みです。」
  • 「競合優位性を確保するための最新設備導入により減価償却費が増加しますが、これにより生産性が〇〇%向上し、〇年後には利益率〇〇%を目指します。」

といった形で、赤字が将来への投資であることを論理的に伝えましょう。

黒字化までの具体的な戦略と数値計画

金融機関が最も知りたいのは、「いつ、どのようにして赤字から脱却し、安定した収益を上げられるのか」という点です。これを裏付けるために、以下の点を事業計画書に盛り込みましょう。

  • 売上目標の根拠: どのような市場で、どのような顧客に、いくらで、どれだけ売るのか。競合分析や独自の強みを踏まえ、具体的な数字で示すことが重要です。
  • コスト削減策・利益率改善策: 赤字を最小限に抑え、早期に黒字化するための具体的なコスト削減策(例:固定費の見直し、効率的な仕入れなど)や、利益率を高めるための戦略(例:高付加価値商品の開発、単価アップなど)も示しましょう。
  • 損益分岐点の明確化: どの程度の売上があれば赤字を脱却できるのか、損益分岐点を明確にし、その達成可能性を具体的に説明することが説得力につながります。
  • 運転資金の適切な見積もり: 黒字化までの期間に必要な運転資金を正確に見積もり、その上で融資希望額を算定しましょう。設備資金と運転資金の使い分けは、こちらの記事でも詳しく解説しています。【【創業融資】設備資金と運転資金の賢い使い分け方|専門家が語る資金調達の最適化】

自己資金の充実と経営者の本気度

自己資金は、事業に対する皆さんの本気度を示すバロメーターです。日本政策金融公庫の創業融資においても、創業資金総額に対する自己資金の割合が審査の重要なポイントとなります。一般的に、自己資金が多いほど、金融機関からの評価は高まります。

自己資金の目安や効率的な集め方については、こちらの記事も参考にしてください。【創業融資における自己資金の目安は?効率的な集め方と注意点を専門家が解説】

また、自己資金だけでなく、事業に対する皆さんの情熱や覚悟、これまでの経験なども、面談を通じてしっかりと伝えることが大切です。

複数年間の事業計画とリスク対策

金融機関は、皆さんの事業が短期的なものではなく、中長期的に持続可能であるかを評価します。そのため、単年度だけでなく、3〜5年程度の複数年間の事業計画を作成し、事業の成長戦略を示すことが望ましいです。

同時に、事業には常にリスクが伴います。市場の変化、競合の出現、予期せぬトラブルなど、様々なリスクを想定し、それらに対する具体的な対策(例:予備資金の確保、代替サプライヤーの確保、事業ポートフォリオの分散など)も提示することで、より信頼性の高い計画となります。

専門家への相談を積極的に検討する

事業計画書の作成や金融機関との交渉は、専門的な知識や経験が求められる場面が多々あります。税理士、行政書士、中小企業診断士といった創業支援の専門家のアドバイスを受けることで、計画の客観性や具体性が格段に向上します。

私自身、創業支援の現場で多くのケースを見てきましたが、専門家の目を通すことで、見落としがちなポイントや、より説得力のある表現が見つかることがよくあります。また、公的な創業相談窓口なども積極的に活用し、専門家からの客観的なフィードバックを得ることをお勧めします。

事業計画書で金融機関に納得してもらうためのポイント

皆さんが作成する事業計画書は、金融機関とのコミュニケーションにおける最も重要なツールです。特に赤字を計画している場合は、以下の点を意識して作成しましょう。

  • 客観的データに基づいた市場分析: 「この商品は売れるはず」という主観的な意見ではなく、客観的な市場規模、成長性、顧客ニーズ、競合分析データなどを提示し、事業の蓋然性を示しましょう。
  • 競合との差別化ポイント: 類似サービスや競合他社が存在する中で、皆さんの事業がどのような点で優れており、どのように顧客を獲得していくのかを具体的に説明することが重要です。
  • 具体的な資金使途と返済計画: 融資された資金を何に、いくら使うのかを明確にし、その資金がどのように売上や利益に貢献するのかを繋げて説明しましょう。そして、その結果として、どのように返済していくのか、無理のない返済計画を示す必要があります。融資の返済期間の考え方については、こちらの記事もご参照ください。【創業融資の返済期間、どう決める?無理のない計画で事業を成功させる専門家の視点】
  • 視覚的な分かりやすさ: 図表やグラフを効果的に使用し、複雑な情報を分かりやすく提示することも大切です。特に財務計画の部分は、視覚的に理解しやすいよう工夫しましょう。

創業融資を受けるための基本的な流れや必要書類については、こちらの記事で詳しく解説しています。【大阪で創業融資を受けるための基本的な流れと必要書類|専門家が語る準備のポイント】

創業融資でよくある失敗パターンと対処法

創業融資の申請では、赤字計画でなくても失敗してしまうケースが少なくありません。赤字計画の場合は、さらに注意が必要です。

実は、この落とし穴にはまる方が非常に多いのですが、「初年度の赤字は当たり前」という認識から、その原因分析や対策が不十分なまま計画書を提出してしまうことです。これは金融機関から見ると、単なる「計画の甘さ」や「責任感の欠如」と捉えられかねません。

よくある失敗パターンとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 根拠のない楽観的な売上計画: 「なんとなく売れそう」といった根拠のない数字で売上計画を立ててしまうと、事業の実現可能性を疑われてしまいます。
  • 資金使途の不明確さ: 「とりあえず多めに借りておきたい」という考えで資金使途が曖昧だと、融資の必要性が伝わりません。
  • 自己資金不足: 事業に対する本気度が低いと判断され、融資を受けにくくなります。
  • 経営者の経験やスキルとのミスマッチ: 経営者のこれまでの経験と、これから始める事業の内容が大きくかけ離れている場合、そのギャップを埋めるための具体的な対策(研修、パートナーとの連携など)が示されていないと、不安材料となります。

これらの失敗を避けるためには、徹底的な市場調査、具体的な数値に基づいた事業計画の策定、そして専門家との連携が不可欠です。創業初期に失敗しやすい事業計画の落とし穴と改善ポイントについても、こちらの記事で詳しく解説しています。【創業初期に失敗しやすい事業計画の落とし穴と改善ポイント【専門家が伴走】】

よくある質問(Q&A)

Q1: 初年度が赤字でも、融資は必ず通りますか?

A1: 「必ず通ります」と断言することはできません。前述の通り、赤字の性質、黒字化への具体的な道筋、資金繰り計画の妥当性、自己資金の充実度、そして経営者の資質が総合的に判断されます。これらが説得力をもって示されていれば、融資の可能性は十分にあります。

Q2: 赤字の事業計画を出す際、特に注意すべき点は?

A2: 最も注意すべきは、赤字の原因を具体的に説明し、それが将来の成長のための「健全な投資」であることを明確にすることです。そして、いつ、どのように黒字化するのか、具体的な数値目標と戦略を提示し、その実現可能性を客観的なデータで裏付けることが重要です。

Q3: どのような専門家に相談すれば良いですか?

A3: 事業計画書の作成支援や金融機関との交渉サポートは、税理士、行政書士、中小企業診断士などの専門分野の専門家が強みを持っています。公的な創業支援窓口でも相談が可能です。ご自身の事業内容や抱えている課題に合わせて、適切な専門家を選ぶことが成功への近道となります。当社のような総合的な創業支援を行っている組織に相談することも有効です。

まとめ

創業融資において「赤字の事業計画」は、一見すると不利に思えるかもしれません。しかし、本記事で解説したように、その赤字が将来への投資であり、明確な黒字化への道筋と、それを裏付ける具体的な計画が示されていれば、融資を受けることは十分に可能です。金融機関は皆さんの事業の可能性と返済能力を総合的に判断しますので、感情論ではなく、論理的かつ現実的な視点で計画を練り上げることが重要です。

一人で悩まず、専門家の知見を借りながら、一歩一歩着実に準備を進めていきましょう。皆さんの事業の成功を、心から応援しています。

株式会社リーガルシンクでは、創業融資や物件選定、許認可手続きなどについて、必要に応じて専門家と連携しながら総合的なサポートを提供しています。

無料相談も受け付けていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

本記事の内容は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案については必ず専門家にご相談ください。

この記事を書いた人

松原元

松原 元(まつばら つかさ)

『リーガルシンク社労士•行政書士事務所』にて『総務の助っ人』として中小企業の許認可取得や労務管理をサポート。(株)リーガルシンクでは店舗不動産等の仲介から創業融資などの資金調達支援や補助金・助成金活用まで幅広く経営全般のサポートを提供。

社会保険労務士 行政書士

公認不動産コンサルティングマスター 宅地建物取引士

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

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